今回のトピックは「埋伏歯」なんですが、先日の9月15日にも埋伏歯に関する講演会に出ておりました。
埋伏歯っていうのは、たとえば

レントゲンで見たときに、右側の3番目の永久歯(犬歯)と左側の3番で、ちょっと位置が違ってきていますね。でも、まだ3番の手前の乳歯Cが残っていて良い時期ですので、レントゲンでなければこの変化には気がつきにくいものです。
次の段階になって

左側(レントゲンでは観察者が向かって右側が、患者さんの左側です)は乳歯が抜けて永久歯が並んでいますが、右側は3番の歯冠をつつむのう胞が大きくなってきて、歯の位置の異常となってきてしまいました。
そうなった場合、個々の症例で対応は異なりますが、
@ のう胞を除去する手術を口腔外科で行う
A 経過観察で、歯が一部口の中に出てきたら、矯正治療で並べる
B うまく出てこない時には、歯肉や骨を削る手術を追加したり、埋まっている歯に矯正装置を取り付けて引っ張り出す「けん引」などを行う ものです

この場合、歯が一部見えてから、この後並べ終わって部品を外すまでは1年かかりました。
歯が見えてくる前から矯正治療は行っていますので、けっこう時間は長くかかりますが、そうしないと埋まっていた歯につながっている血管や神経に影響がありますので、ゆっくりと治療することが必要です。

こうやって、左右が同じ状態になりました。
埋伏歯は「やれば必ず治せる」というものではなく、身体の状況によってゴールの設定を変えるべきときもあります。かける時間と得られる効果とのバランスも大切ですね。
この例の場合は、「やってよかったね」の典型例でしょう。
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で。埋伏歯にはいろんなタイプがありますが、先日の講演は
こちらの参考書 「抜歯しない 埋伏歯の矯正歯科治療」 という本で 野田 隆夫先生・野田 雅代先生の 著書になります。http://nodakyosei.com/guide.html
出版記念とあわせました講演会でした。

演者の野田 隆夫先生です
私が東京医科歯科大学の歯学部の学生であったとき、5年目に矯正の実習がありました。そのとき、学生を班で分けて、それぞれに指導ライターがついてくださるのですが、私の班のライターであった先生のお一人です。
ですので、サインも頂いてきました。
学生の時ですから、優しい先生で、面白くて、飲みにもよく行ってくれて、、、ってことでとても良い先生であると!!! いや、本当はそういうことよりも、数少ない言葉の奥に、理系としてきちんと筋の通った考え方があることが伺える すばらしい指導力を感じ取って、「この先生は頭がいい」と思っていました。
もう一枚のスナップ うれしいです 尊敬している先生が自分を覚えていて、笑顔で接してくれることは感動につながります。

都立くにたち高校から早稲田の理工に進み、それから医科歯科の歯学部に進まれたという背景もあります。
理系の中に医学系も歯学系も含まれるとは思うのですが、どうもきちんとした論理体系がなっていない発表が多くあります。
そういう発表を見るにつれ 「きちんと幾何学を勉強していたら、こんな論法は無いはずだ」とか「極限値をきちんと自分で計算して理解し、微分積分の概念が得られていれば、この係数はおかしいだろう」と 思うものでしたが、以前の野田先生の別の教科書でも それに類じて「考え方」のことを説いているものがあり、感服したことがありました。
この日は、朝から講演があり、昼をはさんで、夕方の懇親会までありましたので、帰る時には
もう夜でした 講演は御茶ノ水の近くだったのですが、これは母校 東京医科歯科大学の校舎郡ですね
以前は御茶ノ水橋、聖橋の前に目立つ建物は 順天堂の建物だったのですが、いまでは医科歯科のほうが目立つ存在になりました。
この日、昼食は講演会の建物に入っていた喫茶店で、同じ講演会に出席されていた、これもまたご縁があり、やさしく指導をくださっていた先輩の 鈴木 昌子先生とご一緒させていただきました。
http://www.greengarden-ortho.com/staffs/
鈴木先生、最近ホットヨガにはまっているとのこと。私も、丁度お盆時期から、怪我のリハビリとして軽いランニングを行い始め、ダイエットが進んでいた時期でしたのでエクササイズ談義などしつつでした。
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家に帰ってから、撮った写真ですが
この日のネクタイですね

おや?

よくみると

実は野田先生と同じネクタイを 自分も持っていたのですよ。朝一番の時点で、それは気がついて、野田先生には話しちゃっていましたけれどもね。 7フォールドの定番のネクタイですので、同じものを持っていたからと言って悪いことは全く思いません。 大人のビジネスマン同士が、紺スーツがそろっても、へんなことは無いでしょ。
でも、こんな偶然も、とてもうれしいものです。明日はこのネクタイで学会参加しようかな。
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埋伏歯の治療がメインの流れになると思いますが、埋伏歯のなかには放置しておいて、何とかなりそうなものもあります

たとえばこのレントゲン 前歯部分を拡大して

余計な歯があるの、わかるかなあ

この場合 前歯を並べてからCTで確認したのですが

後ろから見たときは

手前の永久歯の根とはすれ違いの位置にありましたので

12ヶ月経過

20ヶ月経過と 経過観察中です
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それに対して、逆に放置はゼッタイイカン!というのは

こういう例ですね ぱっとみて異常を感じない先生もあるかもしれませんが、よく見てみましょう

左右の奥歯部分を拡大して並べてみました 違いがわかりますね
濃淡を反転、調整、文字打ってみると

赤い矢印で示されるのが「のう胞」になりますが、旧来の口腔外科的な見解で言いますと
「体内に存在する異物組織塊」であり、「原発巣が臨在している」ものですから、対処療法としては 「病巣摘出」 となります。 それはつまり、埋まっている永久歯は穿り出して、捨てられてしまうわけですね。
でも、こういった部分でも、「まずは可能であればのう胞の摘出」 して 「その後、矯正治療を行う」
ということのほうが、理想的ではないだろうか ということで
「抜かずに治す」につながるんですね。
ただ、1回のレントゲンでは判別つかない時もありますが、「のう胞」が 「悪性腫瘍」に変性してしまう可能性が 一応ございます。
なので、「歯並びは気にしないことにする」として、のう胞を無視してしまうのは危険です。その点も一般の歯医者さんに知ってもらいたいところになりますね。
講演会のあとでお手紙もいただきました。
野田先生には「埋伏歯の症例、けっこうあるんで、プリントアウトをそのうちお送りしてもよろしいでしょうか?」と伺ったのですが、いやいや、日常診療に戻ってきてしまいますと、現在進行形の仕事の方に手が取られてしまって、なかなか準備が進みません。
この場をお借りして、軽々しい提案をしてしまったことをお詫びいたしますが、でも、症例で悩んだ時などは「神頼み」で、相談させていただきたいなあと 思っております。
私が矯正科医になった理由の かなりの割合は野田先生との出会いにあると思いますので、 迷惑でしょうが今後とも責任とってお付き合いくださいますよう、勝手にお願い申し上げます。尊敬する恩師との1日はとてもすばらしいものでしたよという話でした。
おしまい