最初の演者は 簡野 瑞誠 先生 私の大学の同級生ですが、矯正科は二つあって彼は1矯正、私は2矯正だったので医局は別ということになります。

挨拶の中で「緊張してます」とは言っていましたが、いやいや、落ち着いて声が前にしっかり出ていましたよ! カンノさん、声が渋くて普段は小さめだと「え?」と聞き直しが必要なこともあるぐらい落ち着いている話方なんですが、やはり長く大学にいると講義などで話すこともあるのでしょう。後で質疑応答なども合ったのですが、しっかりと的確に案内を進めていて上手でした。
10の症例を提示してくださいました。個別に対応や症状は異なるものですが、備忘録としてここには手持ちの類似症例資料を一部提示します。

たとえば、こんな患者さんが他院から来ます。医科歯科の場合もそうですね。まあ7歳から10歳の間で、上下顎とも前歯4本ずつが永久歯に交換が終了した時期です。 VA〜VBですね。
一見すると前歯はきれいに並んでいますが、、、

レントゲンを見ると、、、む! これから生え変わる永久歯が出てくる場所が足りませんね。特に右上かな。これはいけない!と、見直しすると

・上下の前歯中心線がずれていますね
・左下3番目の永久歯(犬歯)が上顎歯列より外側にはみ出てしまっている「反対咬合」
・下顎前歯が内側に入りすぎていて、出っ歯傾向の「上顎前突」 口唇を噛む癖もあるね
・上顎右側3番が生えてくる場所が著しく不足している:乳歯Cが早期脱落していますね
・下顎左側3番が歯列からはみ出ている
ということが口腔内からわかりますし

もう一度パノラマレントゲンをみると、上顎は両側とも3番の頭の周囲に大きすぎる歯小嚢〜のう胞化した歯嚢が確認されます。上下顎の中心もずれていることがわかりますね。
右上の3番の尖頭は手前の2番目の永久歯(側切歯)の根と近接していて、その影響か2番の根が前方に傾斜しているように写っています。左側も同様の傾向がありますね。
セミナーでは3番が生えて来る場所を、3番が出てきたい時期より前から準備してあげられていれば、このような衝突事故の状況は避けられるのではないだろうかと考え、実際にそのようにアプローチして奏功した実例もいくつか供覧してくださっていました。
具体策としては歯列の拡大(ノットイコール前歯をきれいに並べること)、臼歯の後方移動などもありますが、そのような歯の移動が上下顎全体としての噛み合わせに対してマイナスの影響が大きすぎないかどうか、しっかりと検討も必要です。

CTレントゲンです。頭を上から見て 輪切りにしています。

元データで処理すれば、もっと精密なのですが、今回はあえて個人特定が無いように プリントアウトデータの拡大を使用しています。
例として赤く塗ったのが「歯の頭の周囲にあるお肉の層」です。呼び方はいろいろあるのですが、本来は歯小嚢でしょう。それが異常に肥大化した場合は 濾胞性歯嚢胞とか 含歯性嚢胞とかに移行してしまいます。
図で左端の赤い輪は本来の歯小嚢の厚みです。
左上ののう胞は巨大化していますね
右上ののう胞には、3番の頭と 2番の根が一緒に含まれてしまっています。
のう胞は開窓や摘出をすることが多いのですが、そのとき歯の頭が口腔内に露出しても大丈夫ですが、歯の根が露出してしまうと痛みや神経の感染などの危険があり難しいものです。問題が大きくなった場合、やはり抜歯するしかないものですので、それでしたら手前の検査の段階で決断をして、手前にある2番を抜歯して、3番を上手にはやしてあげよう というような症例が多く紹介されました。
CTを一度撮影した場合、様々な方向から、いろいろな情報が得られますが、たとえば
お顔を正面から見て、タテにすぱっと切断した面です。

左右の顎の関節が、本来の位置にちゃんとあるということを知ることが出来ます。
歯並びの凸凹が原因で、一時的に顎が左右にずれてしまっている場合、この関節の位置がずれていることがあります。そういう場合は、まずその顎のずれを解消する為の治療を行い、前歯の中心のずれが解消されることがあります。
今回の例では、そういうことは期待できず、歯の位置に問題がありそうですね。
それから、気道を見ると、左右の口蓋扁桃腺が明瞭に映し出されていますね。大人でも風邪の時など「のどが腫れて、いがいがする」というと、このように腫れていることが考えられます。子どもでは頻繁に腫れるもので、この所見だけでは異常とはみなしません。
この例では腫れも軽度で、左右対称にきれいですが、重症症例となると左右の扁桃腺がくっついてしまっていたり、大きくなりすぎて場所を取り合い、左右で非対称に凸凹に腫れていて、その間を空気の通り道が左右にグネグネ曲がっているような大変な場合もあります。
同じきり方で、もう少し前の方、3番のあたりの断面例です

大きくしましょう

3番ののう胞が2番の根を押しやっている様子がわかりますね。これは、、、左右とも大変だなあ
次は、横顔を見た方向での断面ですね

色付けで

こういった断面図からのう胞の位置関係を想定します。最近では外形に関しては三次元表示が出来ますので

前歯の中心のずれは、主に上顎前歯が右側にずれてしまっていることだということが、わかりやすいですね

3番の頭が、どのあたりに位置しているかがわかりやすいですね
骨を取り除くようなデータ処理をしました

左の3番ですね。生えてくるべき場所はまあまあ準備されているんですが、

この画像には表示できていませんが、のう胞が存在することと、3番の進む方向が悪くて2番と接触している問題がわかりますね。
多く問題となる症例は、前歯を並べましょうといわれて治療を開始してから、2年以上一度もレントゲンでの確認をしていない為に、問題が大きくなってしまうようですと簡野先生もおっしゃっていました。

同様に右上も3D表示です。 静止画ではわかりにくいときもありますが、実際には上下左右に任意に回転移動をさせながら情報を統合していますので、手前ー奥の関係も把握できています

困った状況にありますね
ということで、その後の治療の流れは個別対応となりますが、
こういった症例、実は多くあるのです。なかなか気がつきにくいのですが、気がつき次第、徐々に対処を図るしかなく、「そうならない予防法」というのは簡単ではありません。
基本的には、本来の咀嚼運動から顎骨が健全に発育し、永久歯が準備されている場所にきれいに生えてくるのが一番だということは間違いないのですが、そううまく行かないからこそ矯正治療を希望されている患者さんが多いのですから、んんん 堂々巡りになってしまいますね。
あと、対処的に前歯を抜歯することが多くありますが、気持ちとして抜歯を拒否される患者さんの場合、ぎりぎりになって抜け落ちてから治療を開始決断されると、抜けてしまう歯の本数が多くなってしまい、将来的に人工歯の利用本数が増えてしまう傾向があります。
私たち矯正専門医の場合、定期健診の範囲でも必要、心配があればレントゲンの撮影を適宜行います。それには実費はやむを得ずかかるものでしょうけれども、必要があるから来院をお勧めしているものです。
4−6歳で一度反対咬合の治療がすんだ後でも、1−2年ごとには来院をお勧めしているのはそういった経緯もありますね。
心配になった方は、きちんと見てもらったほうがいいですよ。
パート2に続く かもしれない