二番目の演者の先生は 外木 守雄(との「ぎ」)先生です。紹介されるとき、どうしても「との「き」先生」と呼ばれていることが多いですが、せっかくですから 皆に覚えてもらいたいです。

外木先生は東京歯科卒ですが、現在は日本大学歯学部の口腔外科学講座教授となられています。学会タイトルは「上顎犬歯による 前歯部歯根吸収症例の診断と対応」となっておりますが、口腔外科の立場からということで、症例例示は8番目の永久歯(第三大臼歯:通称親知らず)の影響による7番目の永久歯(第二大臼歯:通称12歳臼歯)の傾斜や埋伏症例の対応を供覧くださいました。
たとえば サンプル例示として、パッとパントモから

右下を拡大しますと、、、7番の近心傾斜とそのすぐ後ろに乗っかっている8番が確認されます

たとえば、口腔外科的アプローチとしては、一番後ろの8番をまず抜歯して

その後ろに矯正用のインプラントアンカーを埋入して (画像はイメージですよ)

手前に倒れている7番を後ろに引っ張れば、歯根を中心に動きますから、丁度傾斜も改善され

さらに、手前の6番を後ろに下げれば、手前の凸凹も解消されるだろうという

そういった手順の部分的矯正治療もしばしば行われるものです
実際の口腔内は

確かに、この手順で行うと、この部分はきれいに並びそうですね。
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余談ですが、実際にはこの症例はやはりインプラントアンカーを用いて配列を行っていますが、その用い方は参照図とは異なります。

もう一度、最初のパントモと 治療途中でのパントモを示しましょう。上顎両側とも臼歯部の埋伏状態もありますし、下顎左側は大臼歯が欠損しています。下顎前歯部も両側2番の先天欠如ですね。
レントゲンだけで治療方針が決まるのではなく、虫歯の具合とか、お顔、唇のテンションとかいろんなことを総合的に考慮して治療方針が決まるので、細かい経緯は書ききれませんが、今回の場合は
・右上7番抜歯
・右上4番抜歯
・左上6番抜歯
・右下ではなく、左下臼後部にインプラントアンカーを埋入
して治療を進めました。
そうしますと

下顎は臼歯が欠損している左側に歯列全体を移動させる意識で叢生を解消しています。

上顎は重度叢生とカリエスの具合を考慮して治療していますね。口蓋襞に上顎前歯正中が合っているのがわかります。
こんなふうに左右非対称に抜歯している治療は、歯の動き方のイメージが非常に複雑に感じられる先生が多いかと思います。私は偶然にもCADのソフトウェアに触れる機会がありましたので、本当にものすごく細かくセットアップを繰り返し繰り返すことが出来ました。
(過去学会より)
そのおかげで、4番抜歯以外でも歯の動きのイメージがそれなりに出来てきたのではないかと思います。難しい症例に関しては、複数治療方針を立てるセットアップの完成までにクリック数で言えば数百していると思います。その1クリック、1クリックの意味がわかっているから、意味があると思います。
手前味噌ですが、そうやって立てた治療シミュレーションと、実際の治療結果を きちんとCADで重ね合わせして、実際に治療がどの程度実行されてきたのかということを、もう10年も前には学会で発表してきていました。しかし、まだまだ同じことを臨床でやる先生は少ないですね、というか、大学でも出来てません。

正面図ですが、どうでしょう。実は下顎前歯は正中を1本ずらしているんです。
この状況で、お口の中はきれいになってきましたが、骨の中もしっかりと見てみると

右側臼歯部では上顎8番は自然に動いてきたのですが、まだ埋伏状態にありますので開窓けん引を図るところです

左側臼歯部です こちらも上顎8番のけん引を計画しています。
また、下顎左側は7番欠損かと思っていた部位には、矮小歯が存在しています。細かいものもありますので、もし成長変化があるようでしたら歯牙種として摘出の可能性もあるでしょう。
その場合、下顎右側8番を摘出して左側に自家歯牙移植するということもデザインとしてはあるのですが、実際の施術内容や時間を考えると、そう簡単なものではないでしょう。
状況に応じては右下は8番開窓後、ブラケットを装着して整直も可能です。
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別症例ですが、近心傾斜している8番を手前に移動させながら整直する事だって、不可能ではないという実例をどうぞ

2級、前歯部開咬、叢生 ですね

抜歯時期はそれぞれずらして治療が進みましたが、
・上顎両側4番抜歯で、上顎の前歯後退の治療を先行。開咬を解消してMFT
・下顎両側6番を抜歯して、下顎の治療も開始。叢生解消。
・上下叢生解消後、再診断で 上顎両側7番を抜歯して仕上げ
となっています。

治療後です。8番の虫歯は丁寧に一般歯科の先生に治してもらっています。最初、真横を向いていた歯が、真上に向いているんですよ。

とはいえ、すごいのは治療技術ではなく、長くかかってもよりよい結果を、と、望んでくれて、我慢強く通ってくれた患者さんです。
この実例の場合、抜歯は3回に分けて行われているわけですが、その2番目のステージがこのレントゲンに相当します。15ヶ月でこんなに治る ともいえますが これだけ治すのに15ヶ月もかかるんですよ。
その前後にも1−2年の治療ステップがあるわけですから、なかなか大変です。
頭で考えて「やればできそう」って言うのと
実際にそこまで「やってできる」
すごい違いです
ちょっと脱線してますが、たまには歯科情報でOKでしょ